山脇学園中学校・高等学校 YAMAWAKI GAKUEN JUNIOR & SENIOR HIGH SCHOOL

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2023年度 高等学校卒業式を行いました ~その1~

学園便り

3月9日(土)、山脇学園高等学校第76回卒業式を行いました。

前日の降雪とは打って変わって、早朝から澄んだ青空が広がっています。
卒業式の朝は、武家屋敷門、通称「志の門」を通って登校します。
当日は早くから開門を待つ卒業生・保護者の方の姿が見られました。

卒業式前、第一制服に身を包んだ卒業生たちは少し緊張しつつも誇らしい表情です。校庭で、家族や友人と記念撮影する姿も見られました。

式場への誘導・受付・教室の整備など、高校2年生も準備を手伝ってくれました。

式には、多くの保護者の方がご臨席され卒業生の様子を近くで見守ってくださいました。
卒業生が式場に入場すると、大きな拍手で迎えられます。

担任が卒業生ひとり一人を呼名。

卒業証書受領後は、学校長からの式辞、来賓の方々からの祝辞が送られました。
今回の記事では、学校長式辞を紹介致します。

柔らかな春の日差しが、みなさんの旅立ちを祝福しているかのようです。

この佳き日に、ご来賓・保護者の皆様方にご臨席を賜り、山脇学園高等学校第76回卒業式を挙行できますことは、私ども教職員にとって大きな喜びです。

卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。

ただいまお名前を読み上げた268名のお一人お一人のお顔を拝見し、6年前まだ幼さの残る少女だった皆さんが、美しく凛とした女性として成長された姿に、胸が熱くなる思いです。

私たちは今、みなさんと過ごした日々を思い出しています。

中学1年・2年は、元気でバイタリティーあふれるみなさんの顔が浮かんできます。何事も臆せず楽しそうに取り組み、みんなで頑張ろうという気持ちを感じる学年でした。それぞれのこれからのチャレンジを楽しみにしていた中学2年の終わりに、コロナ禍に巻き込まれることになりました。

中学3年・高校1年の2年間は、制限の多い日々を過ごしました。行事は縮小したり形式を変更したりして可能な限り実施しましたが、行えなかった行事もありました。

みなさんにとって最後の合唱祭は、1カ月前に中止という苦渋の決断となりました。「あきらめたくない」と曲を決め、感染対策で壁に向かって練習していた健気な姿に、中止を伝えなければならなかったあの気持ちは、いまも忘れられません。

学園に日常が戻ってきたのは、皆さんが高校2年の時でした。修学旅行、山脇祭を無事に行うことができ、体育祭も3年ぶりに6学年合同で実施できました。2年間行えなかった本来の行事の姿を復活させ、伝統を繋いでくれただけではなく、新たな工夫により進化を加えてくれたみなさんでした。

高3の体育祭では、「全員幸せ、日常に感謝、思いを繋ぐ」を合言葉に、笑顔と熱気で輝く一日を創り上げてくれました。思いのこもった「ペルシャの市場にて」は、創立120周年という記念すべき節目に立ち会ったみなさんが、後輩たちへのメッセージを残していくかのような素晴らしいダンスでした。

最後はそれぞれが受験というステージに挑みました。よく頑張りましたね。目標に向かって精一杯努力してきた道のりをご自身の軌跡として、新たな道を前に進もうとしているあなた方の姿を誇りに思います。 

6年間の様々なシーンを繋ぎ合わせて、あなただけのジグゾーパズルをつくったとしたら、すぐにピースをはめることができる部分と、うまく思い出せず空白の部分とができるのではないでしょうか。でも仲間と一緒に取り組んだなら、きっと完成することでしょう。自分が忘れてしまっていても誰かが覚えているシーンがある。あなたがいてくれたことを、あなたが言ってくれたことばを、覚えていてくれる人がいます。あなたのパズルはみんなでつくった「彩り」あふれるピースでできています。いくつになっても思い出のピースをはめ合い、懐かしむつながりをもっていてほしいと思います。

さて、明日からそれぞれの道へ進んでいくみなさんに、最後の課題を二つ贈りたいと思います。

シンプルだけれど、人生をかけて取り組んで欲しい課題です。

一つ目は「あなたの“心”が幸せを創り出す」ということです。

以前みなさんに、二つの「幸せ」についてお話ししました。欲しいものを得た時や目標を達成したときの幸せ(Happiness)と、心身ともに満たされた状態で生きる幸せ(Well-being)。どちらも必要だけれど、たとえ欲しいものに手が届かなくても、今ある幸せに気づく力を持ち、誰かの幸せに貢献しようとするWell-beingの視点を持ってほしい、と言いました。

私たちは今、地球規模での複雑で深刻な社会課題や、多くの人の命を奪う争いを止めることができずにいます。また昨年、数学や物理学、量子力学の専門家らでつくる数理意識化学学会が、国連の諮問機関に緊急課題として、「AIが感情や人間レベルの意識を持つことを想像するのは、もはやSFの領域ではない」と勧告しました。

未来社会はこれらの課題と向き合い、人間とは何か、進化し続けるテクノロジーを真に人の幸せに使うためにはどうしたらいいのかを考え続けることになるでしょう。問われるのは、人間の叡智と崇高な心です。

私たちは常にスマホのありかを確認していますが、心のありかを意識することはなかなかありません。忙しい毎日、自分が何を感じ、何を考え、どうしたいのか、深く心と向き合う時間を持てない人も多くなっているようです。そのような人が、他者の心の存在に気づけるでしょうか。AIが感情や意識を持った時、良きことを求める人間の心の機能が低下していたらどうなるのか、考えるだけでも恐ろしいことです。

人に思いを伝えようとするときに、私はチャットGPTを使おうとは思いません。伝えたい人との関係や、一緒に過ごした時間、心をふれ合わせた経験のなかからことばを紡ぎ出し、推敲することに意味を感じているからです。そのなかでこそ大切なことに気づくこともあります。

便利なものに頼り、手を抜くことがあってもいい。しかし、自分や他者の心と向き合い、大切に取り扱うことには手を抜かないでください。Well-beingは、テクノロジーの発達がもたらすものではなく、人間の心が創り出すもの、それをあなたはどう実現するかを考え続けていただきたいのです。

みなさんに贈りたい二つ目の課題は、「一流であれ」ということです。

一流と言って私が思い出すのは、先日亡くなられた指揮者の小澤征爾さんです。音楽の授業でも小澤さんの指揮による交響曲の鑑賞をしましたね。飾り気のない長い白髪をなびかせ、命そのものをスパークさせて指揮をしていた姿を覚えているかと思います。彼は世界的な地位を築いてからもずっと、毎朝5時から9時まで楽譜を読んで勉強していたことはよく知られています。譜面を読み込み作曲家の心と対峙して聴衆に伝えるのが自分の使命だ、という信念をもっていました。世界的なオーケストラであっても、学生たちのオーケストラであっても、繰り返し伝える言葉は同じでした。「もっと歌うんだ、もっと魂で奏でるんだ」「技術の上手下手ではない、その心が人を打つのだ」

訃報のあと、改めて小澤さんの音楽を聴いて思いました。こんな音楽を生み出せる人はいない。誰も真似できない、その人の心が創り出す唯一無二の仕事をする人が「一流」なのだと。

私たちの周りにも、その道に誇りをもって打ち込み、人々に喜びを創り出し感動を与えてくれる人たちがいます。どのような場所で何をしていても、どのような仕事を選択したとしても、「一流であること」は、自分の志と真摯に向き合おうとする心ひとつで誰にでも目指せることだと私は思います。

みなさんが今携えている「志」には心が宿っているでしょうか。その志は自分の魂を注ぎ込めるもの、人の心を動かし、幸せを創り出すものでしょうか。この問いを、人生を歩むうえでの指針にしてください。

「幸せを心で創り出す」「一流であれ」この二つの課題は、私も取り組んでいる道の途中です。山脇にいらしたときには、あなたの進捗状況を報告してください。

さあ、みなさんと歩く道のりはここまでです。慣れ親しんだ学び舎から、新たな扉を開き、一人で歩んでいかれるのを私たちはここで見送ります。

制服を脱いでも、今日も胸に輝く校章は、これからもずっと心の中につけ続けてください。優しさと品格ある美しさを忘れないでください。「しるしに恥じずもろともに 勤めはげみて世に立たん」もろともに、とは、ここにいるみなさんと先生方だけではなく、この校章を心に、社会で活躍している多くの先輩たちすべてです。道に迷ったときには、その存在を思い出してください。一人ではないのだ、と支えられ、あなたの道しるべになってくれることと思います。

最後になりましたが、保護者の皆様に一言ご挨拶を申し上げます。お嬢様のご卒業に、心よりお祝いとお喜びを申し上げます。

6年前、真新しく少し大きめのワンピース姿で入学されたお嬢様を、毎朝心配しながら送り出されたことでしょう。そしていま、同じ制服を、こんなにも美しく着こなしている姿をご覧になり、さぞ感慨もひとしおのことと思います。

私ども教職員一同、大切なお嬢様をお預かりし、人生で最も心身の成長著しい、まさに少女から女性への成長期を、保護者のみなさまとともに手を携えて見守ってまいりました。中高時代という思春期にあたり、お嬢様のご成長の日々には、さまざまな表情があったことと思いますが、どのような時も学園をご信頼いただき、毎日温かく送り出してくださったこと、多大なるご理解とご支援を賜りましたことに、心より感謝申し上げます。お嬢様がこれからの人生を力強く歩んでいかれますことを願い、そのご活躍を、保護者の皆様と共に精一杯応援し続けてまいります。

それでは卒業生のみなさん、どうぞお元気で。お一人お一人のお幸せを心から祈り、式辞といたします。

令和6年3月9日
山脇学園高等学校校長 西川史子