2022年度2学期終業式を行いました~その1~

2022年12月21日

12月21日(水)、2学期終業式を行いました。

高校3年生・2年生は講堂で参加、高校1年生・中学生は講堂からの中継を自教室で視聴しました。式では、学校長より「幸せ因子」についてのお話に加え、受験に挑む高校3年生への応援メッセージも伝えられました。

 

式の日は、全員第一制服(正装)を着用します。

以下、学校長の式辞をご紹介します。

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2022年を締めくくる2学期の終業式です。今日は高3生のみなさんのお顔を見てお話出来ることを嬉しく思います。全校の皆さんも、一緒に講堂にいる気持ちで、目と心で聴いて下さい。

今日は「幸せ」というテーマで話をしたいと思います。

 

みなさんは「Well-being」という言葉を知っていますか。直訳すると「よきありかた」「いい状態」で、「幸福」と訳されることも多い言葉です。瞬間的な幸せを表す「Happines」とは異なり、持続的な幸せを意味するのが「Well-being」です。この言葉は、1946年の世界保健機関(WHO)憲章のなかで提唱され、その前文では、「肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状況にあること」とされています。

今この持続的な幸せ「Well-being」という概念が世界的に改めて注目されています。その理由や背景には、これからの未来社会をあらわす「VUCA」、すなわち複雑で変化の激しい先行き不透明な世界を実感している人々が、「幸せとは何か」をとらえなおそうとしているように思えます。だれもがWell-beingを味わえ、かけがえのない人生を送るためには、持続可能な世界が大前提です。しかし、「自分の国さえよければいい」という考え方、民族を差別し、国境で隔て、領地を拡大し、他国を犠牲にしてでも国益を得ようとする考え方は、依然としてなくなりません。科学の進歩がこれほどに進み、遺伝子の研究や人の命を救う医療技術が進んでも、海を隔てた国の状況や人々の情報に接することができ、そこに生きる人々の思いを身近に感じられるようになっても、戦争すらなくならない現実を、この一年は痛いほど突き付けられ考えさせられました。

そのような社会情勢の中で、これからは経済もテクノロジーの発展も、人々のWell-beingを意識した設計がされるべきである、という考え方が浸透し、さまざまな研究や議論・実践も進んでいます。これからの時代は、VUCA時代を前提とした社会理解の上に立ち、文系だとか理系だとか学問の領域などに関係なく、自分の学んだことは人々のWell-beingにどのように役立てられるのか、という1人1人の意識が必要です。山脇では、「志」という言葉を大切にして、「志」を育み進路実現を考える機会を意識的に設けています。「志」とは、自分の学びたいこと、やりたいことは何か、というほかに、それをどのように社会や人のために役立てていくのか、という二つの意味を持ちます。人生を生きる時、人は「自己実現」と「他者貢献」の両方を感じられてこそ、自分の存在の意味を感じ、Well-beingを創り出すことができる、全ての山脇生にそのような高い志をもって、幸せを感じて生きてほしいと考えているのです。

 

さて、少し違う視点から私たちの「幸せ」について考えてみましょう。幸せの科学的な研究はさまざまあるのですが、その人の暮らす環境や健康といった要因のほかに、その人の物事の捉え方、考え方に大きく起因する、とされています。「幸福学」を提唱する慶應大学大学院教授の前野隆司先生は、長年のデータ研究からこんな調査結果を出しています。

・「笑顔」の多い人はそうでない人よりも、健康で長寿の割合が高い。

・「幸せ」と感じている人は、そう感じていない人より7年~10年長生きする。

・「幸せ」と感じている人は、そう感じていない人よりも1.3倍生産性が高く、3倍創造性が高い。

そして、個人の「Well-being」は何かの先に結果的にあるものでなく、日常的に自分で作り出すことができるもの、自分で意識し目指せるものだと説いています。そのためには、「幸せに影響する4つの因子」を自分で意識することが大事、ということです。山脇生全員が自分自身で幸せを感じられる人になってほしい、という思いを込めて、これから紹介します。この一年を振り返りながら、ご自身に当てはまるかどうか考えてみてください。

  • 「やってみよう」因子

生き生き、ワクワク、やるぞー!という状態のことです。失敗を恐れずトライしたり打ち込んだりする気持ちです。成功しても失敗してもそこに自分の成長を見出し、また次のチャレンジを求める人は幸せに近づきます。反対言葉は「やらされ」因子です。何をやるにも、やらされ感のある人は成長やワクワク感から遠ざかっていきます。

  • 「ありがとう」因子

当たり前にある幸せに気づき、感謝する気持ちのことです。また他人のために貢献したい気持ちが強い人ほど幸せを味わう機会が増えます。幸せ因子は、周りの人とのつながりの中で高められるので、友達は少ないよりも多い方が、多いよりも、多様であることがよいそうです。気の合う人や同じ意見の人とばかりでなく、多様な人とコミュニケーションが取れ、感謝を表現したり受け取ったりできる人が、より幸せを感じられます。

  • 「何とかなる」因子

前向きさ、楽観的さです。「やるだけやったら何とかなる」と思える人の方が、幸せに近づきます。なにかと「やめとこうかな」と思いがちな人は、幸せを感じるチャンスを遠ざけているかもしれません。また、失敗してもクヨクヨしたり引きずったりせずに、気持ちを切り替え、次をよくしようという気持ちが幸せを引き寄せます。

  • 「ありのままに」因子

自分と他人を比べない人です。人は人、自分は自分。自分で選択した道、本当に努力した結果なら、誰が何と言おうと自分でOKを出してあげられる人です。人と比べたり、評価されることや勝ちにこだわったりすることは妬みや恨みにつながり、幸せが遠ざかっていきます。

前述の前野先生はこの4つの幸せ因子のほかに、Well-beingに必要なのは「俯瞰する力」だと言っています。人は悲観的な時は視野が狭くなり、目先の部分だけ見て、そればかり考えてしまいがちで、そんな時は気持ちも小さく、ゆとりがなくなります。一方楽観的な時は、視野が広く、全体を見ることができ、人の意見を受け入れたり、人の気持ちを想像したりして、よい解決策も浮かびます。「俯瞰する」。悲観しそうになったときに思い出したい言葉です。

 

私は、学校は幸せ因子を育む宝庫だ、と思うのです。学校は多様な人と学び協働する小さな社会。ときには、仲間とぶつかり合ったり、思いが伝わらなかったり、失敗して、自分が小さく思えたりすることが誰でもあるわけです。自分軸しかないと、誰かを責めたり、何かのせいにしたり恨んだり、幸せからは遠ざかります。でもみなさんは、毎日仲間と学び合う中で、ものごとを複眼的にとらえたり、多様な価値観を受け入れたりして「俯瞰して見る」力をつけています。山脇での毎日の様々な経験を、是非、幸せ因子を意識して過ごしてみてください。そのことが自分も周りにもWell-beingをつくりだすことにつながります。

この2学期に、生徒の頑張りやチャレンジを表彰する場として、「マイステージ」という場をつくりました。すでに4回、お昼休みに行い、放送でみなさんにお伝えしています。中1生から高3生まで、学校で取り組んだものや、自分で探して挑んだコンクールやコンテストなど、実に多種多様なチャレンジがあり、成果を表彰できたことを嬉しく思いました。

「ステージ」という言葉は、本校では自分が一生懸命やってきたことを披露したり発表したり、人さまに評価していただく場のことを意味します。目標を立て、ステージに向かって本気で臨むこと、そして本番の舞台に立つ経験を重ねることが、人を成長させる、と考えています。そしてステージに挑む経験はまさに「やってみよう」因子をはじめとする幸せ因子を育む、と考えています。

この2学期は、山脇祭・体育祭といった行事、部活の発表や試合など、みなさんにとってステージといえる経験がたくさんありましたね。最近では高2の部活引退に伴う、引退公演や試合などもいくつか拝見させていただきました。皆でステージを創りあげる経験は、苦労もあるけれど、達成感や仲間への感謝など多くの幸せ因子をみなさんの中に育んだのではないでしょうか。

山脇では、仲間や先輩後輩のチャレンジを温かく応援し、互いの頑張りを称える風土があります。たくさんの山脇生が、「やってみよう」因子を高め、好きなこと、興味のあることを深め、挑むステージを求めてほしい、と思います。また、この12月にはラーニングフォレストも新たに完成しましたね。今後は大いに活用して、みなさんの探究的な学びを深め発表するステージを広げてほしい、と願っています。

 

最後に、高3生の皆さんへ。

この2学期、体育祭に思いを込めて取り組む姿、山脇での日々を慈しむように過ごしていたみなさんの姿を見ていました。皆さんは、高校時代の多くをコロナ禍で過ごしました。今お話しした「ステージ」の機会を得ることすらなかなかできなかったかもしれません。しかしそのようななかでも、現状を受け入れ、他と比べたりねたんだりせず、できることをやろう、と気持ちを切り替えていたみなさんでした。どうしたらできるだろうと考え続け、創意工夫し、実施できたことを喜び、感謝の気持ちを忘れなかったみなさんでした。それらはまさに先ほどの、「4つの幸せ因子」を体現していたと思うのです。

最後のステージ、受験においても、そのままでいきましょう。十分に準備した後は「行くぞ!」とチャレンジする気持ち。緊張したときは「やるだけやった、なんとかなる」の気持ち。そして本番でも「準備してきたものをありのままに」の気持ち。あなたの本番がよいステージになるよう、舞台のそでで見守り、祈ってくれている方々へ「ありがとう」の気持ち。全員が最後まで力を出し切れたと思えるステージになることを、私も信じて祈っています。このあとの送別会でのたくさんの後輩たち、先生方のエールもしっかり受け止めて、力にしてください。

 

 それでは、山脇生の皆さん、良いお年を。冬休みも、みなさんの幸せ因子を、周りの大切な人と分かち合って過ごせますように。来る2023年が皆さんにとって心身ともに健やかで、Well-beingな一年になりますよう願います。

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式の最後には、校歌を斉唱しました。

マスクは着用のままでしたが、講堂には久々に生徒の澄んだ声が響きました。